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呉須象嵌のこと
栄木 正敏 

 1970年の初期の手描きシリーズから25年ほど経ち、形と模様デザインを大幅に変えた。平筆や付け立筆の面の模様から線を主体にした呉須象嵌技法にした。自分の工房では制作から焼成まですべて行うが、主に素地の製作と焼成は工場の専門家の手にまかせ、他はすべて自分で描くクラフトデザイン的な製品である。特に最初から量産を意図したものは、明治期からの銅板転写を採用した。

 デザイナーは、住まいや仕事をする所によって都会型と産地型の二つのタイプがある。私のような陶磁器をデザインする者には、東京の青山などにいるより、陶産地瀬戸の田舎にいた方が断然都合が良い。いろんな製陶工場に囲まれた環境で試作費用が安くて済み、少量生産も可能で、なおかつ環境的に良いアイデアが閃きやすいからだ。都会に住む他分野のデザイナーが陶磁器のデザインを手がける場合、図面やスケッチ、せいぜいモデルまでであるが、私の場合、それでは終わらない。モデルや量産のための原型はもちろんのこと、型の制作修正や成形、釉薬、顔料のテスト、筆で模様を描き、窯で焼く、といった製作の全工程に自ら関わり、試行錯誤をしながらデザイン作業を進めていく。それは産地に住む利点であり、私のオリジナリティーを生み出す源でもある。全工程からデザインを考える私とってアイデアスケッチは重要だ。どんな所でも描ける鉛筆やシャープペンがあれば充分である。ただし、工程の中で陶磁器に模様を描く際の筆については一つのこだわりがある。 私は生地に呉須の細い筆で描くエッチング風の模様デザインに25年来こだわっており、この筆が無くてはならない大切なものとなっている。本来は中風予防にもなるという飯碗の網目模様を描くときに使われるもので、瀬戸の職人の方から聞いて自作したものである。針が筆の中に内蔵されているため、毛細管現象の原理で陶磁器顔料がスムースに染み出て、陶器の素焼き肌にエッチング風線模様が描け、熟練すれば均一な線を楽に描くことができる。この筆は市販されていないものであり、このような「産地にしかない」ちょっとした伝統の集積が自分自身のパーソナリティを作るのではと思う 1970年の初期の手描きシリーズから25年ほど経ち、形と模様デザインを大幅に変えた。平筆や付け立筆の面の模様から線を主体にした呉須象嵌技法にした。自分の工房では制作から焼成まですべて行うが、主に素地の製作と焼成は工場の専門家の手にまかせ、他はすべて自分で描くクラフトデザイン的な製品である。特に最初から量産を意図したものは、明治期からの銅板転写を採用した。


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