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実用性備えた比類なき美  =栄木正敏「WAVEタンブラー」=
外舘和子・美術評論家 

栄木正敏「WAVEタンブラー」(1980年代デザイン、2000年製品化、愛知県立芸術大学芸術資料館蔵)
 戦後、鑑賞本位の一品制作の陶芸が広がりを示す一方で、実用と量産を意図し、設計と加工を分けて製作される陶磁器の世界もまた充実した展開を示してきた。日本の食卓に並ぶ器の豊かさは、そうしたプロダクトデザインの陶磁器を手掛ける作家の仕事にも負っている。

 1944年千葉県生まれの栄木正敏は日本を代表する陶磁デザイナーの一人。愛知県瀬戸市を活動拠点に選んだのは、陶芸技術の蓄積があり、優秀な職人のいる中規模の製陶所が集中するからである。意匠内容により、栄木が図面や石こう原型までを手掛けるもの、絵付けなどその後の工程の一部にまで関わるものなど、柔軟に生産システムを工夫しながら、複数の製陶所と協力して実用の陶磁器を世に出してきた。

「WAVEタンブラー」は1980年代にデザインし、2000年に製品化されたアイボリー磁器の器。波打つ曲面を描きながら3点で立ち上がる姿は他に比類のない美しさである。底全体に施釉(せゆう)する伏せ焼きなど、瀬戸の技術を熟知した栄木ならではのデザインであり、また卓上でも、手に取っても優れた安定性を発揮するユニバーサルデザインの性格も併せ持つ。

 タンブラーの底には、「木」と人間の「手」を意匠化した栄木のロゴマーク。栄木は70年代から、師・加藤達美に倣い、自身のデザイン陶磁器に裏印を入れている。

 産地に根差し、陶磁デザイナーの個性と責任に意識的であり、デザインによって時代や受け手に新たな提案をしていく。栄木はそうした社会的存在としての陶磁デザイナーの意義と可能性を、生産システムの工夫と創造的な意匠の両面から実践的に示してきた作家である。2011年1〜2月、陶磁デザイナーとしては3人目となる、栄木の仕事を振り返る個展が東京国立近代美術館で開催された。

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