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ドイツ・マイセン窯で模倣された私のデザイン 「COMPACT」カップ
栄木 正敏 

 一年半ほど前、私は大学の海外研修で1ケ月間、伊・独・フィンランドを自分の足と鉄道を使って窯業やデザインの現状を観てきた。旅行の大きな目的の一つはゼルプ市のドイツ磁器博物館とハレ市の美術博物館の見学であった。その2つの美術館で会員の森正洋氏が個展を2000年に行っている。海外の公共美術館で個展をした日本人は誠に稀なことであった。それも明治期からドイツの窯業技術やデザインに日本人は憧れ、模倣に近いことまでしてきた量産磁器先進の地である。ローゼンタール、フィチェンロイターなど多くの世界的な大工場がひしめくのがゼルプ市であり、バウハウスが近くにある古都がハレ市なのである。古城の外観はそのままに内部をリファインした展示空間、ここで「森正洋―日本の現代陶磁器デザイン展」が開催されたのだと思いつつ、美しい国立ハレ美術博物館をじっくり観る。

 その後、会員の長井千春さんの母校であり、1500年も前の古城を改装したハレ芸大でフーベルト・キッテル先生にお会いする。彼の研究室の棚にはお気に入りのタピオ・ウィルカラ(ローゼンタール社)や森正洋(白山陶器)等私とまったく同じ好みの陶器が多数飾ってあった。

あーれ、僕のデザインしたカップ(註1)がと・・・・つい手に取ってみた。しかし少し立ちを高くしてあるが、私には模倣だと直に解った。キッテル先生はこのメーカーを良く知っていて社長の名刺まで持っていた。ゲセルシャフト マイセンNPM社である。ただし有名な剣マークの国立マイセン社ではないとの事。一年後、彼が我が家に訪れる機会があった。私のカップを見せると、「マイセン窯が模倣した」と恥ずかしそうに私に言った。私のプラスチックのデザインは韓国や中国で多数模倣されているが本場ドイツでこの様なことが行われているとは思ってもみなかった。キッテル先生は我が家にある問題のカップを鞄に詰め込んだ。今、彼の研究室に私のデザインを模倣したドイツ・マイセン窯製カップに替わって、私のデザインした本物の日本・瀬戸窯製カップが飾ってあることだろう。

(註1)このカップはCOMPACTシリーズの一つである。1986年第16回スペイン・バレンシア国際工業デザイン展で国際大賞のグランプリを受賞、ファエンツァ国際陶芸美術館、東京国立近代美術館に収蔵

 21年も前に愛知県陶磁器工業組合の依頼でデザインしたものだ。この様な公的な産地とデザイナーのすごく単純な結びつきは互いにリスクを背負わない為、せいぜい見本止まりで、昔から商売に成ったためしが無い。地元故、私なりに全責任を採る事にした。自前で型をつくり、工場で生産指導し、注文し、在庫し、いろんなしゃれたショップに売りに歩いたことを思い出す。今も心に残る私の作品であり、製品、商品でもある。


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